5月の末、Fountain Mountain 初のポップアップストアを開催。
ポップアップをはじめよう思ったのは
「売れなくてもいいから、自分の好きなものをみんなに見てもらおう」という
本当に本当にシンプルなもの。
そんな Fountain Mountainが声をかけたのは、和田真帆さん。
神奈川県の城下町 小田原で生まれた「大磯妻」の作家さんです。
万人ウケするはずもなく、
ごくごく一部の「裸好き」へ向けたつもりが
たくさんのお客さまのもとへお嫁に行った大磯妻。
良い意味でたくさんの裏切りを見せてくれたポップアップでした。
作家・和田真帆さんに聞いてみたかったこと。
作家活動の経緯、大磯妻の誕生、そして現在。
インタビュー 第一弾、和田真帆さんにお話を伺いました。

↑「大磯妻」の作家、和田真帆さん。記事中にはない雑談もたくさんお話させていただきました。
いつお会いしても人に気を遣わせない、自然体で素敵な女性。
手もとの写真集は、鬼海弘雄さんの「東京ポートレイト」。和田さんがいまもっとも注目している写真家さんです。
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Fountain Mountain として、初めてのポップアップストアを
和田さんの「大磯妻」にお願いできたこと、本当に嬉しかったです。
これ、たくさんの人に聞かれたことなんですけどね。
あの丸裸の大磯妻の誕生ってどんなものだったんですか?
結婚して子供が生まれて、家族全員でお風呂に入っていたんですよ。
そしたら….
え?旦那さんも一緒にですか?
そうそうそう。
なんかもう家族だし、恥ずかしいも何もないし
ただただ「裸の付き合いってイイな..」って思ったときに
ふと「これだ!!」とヒラメいちゃって。
「なんか…あたし… 裸の人形、作りたくなっちゃった!!!」って。笑
ちょうどその頃、子育てのストレス発散で
ちょこちょこ子供の洋服やら自分の洋服やらを…作っていた時期だったのもあって、
子供が夜寝るのを見計らって、チクチク作り始めたんです。
そうやって作り始めたら、「妻」っていう名前もフッと降ってきちゃって。
人形に「妻」という名前、ものすごくネーミングの妙を感じます。
「お母さん」でも「奥さん」でもなく、「妻」…。
なぜ妻でなければならなかったのでしょうか?
「お母さん」じゃあちょっと面白くないな~と。
でも、「妻」だったらいろいろ背負ってそうじゃないですか?笑
あはははは(笑) 業を背負ってる?
そうそう(笑)。
いろいろね、想像するじゃないですか。妻って言葉。
「ちょっとエロいかも」とか。笑
それで、迷わず「妻」って名付けたんです。
今回、Fountain Mountianでのポップアップストア用に、
とってもたくさんの妻を作っていただきました。
肌の色も美白妻から日焼けしている妻、そして黒人風の妻。
体型もスリム体型から腰の張った安産型…
一体一体個性が出ているので、自分に投影して選ぶのが楽しいことも好評の一因でした。
ただ、ひとつ気になったのが
肌の色やボディの造形に変化はあるのに、表情だけ必ず全員無表情なんですよね。
なんだかそれがシュールで面白くて。笑
あはははは 笑
あ~ それはねえ… やっぱり「妻」なので。 笑
妻がさぁ、みーんなニコニコ笑ってたんじゃ、ウソっぽいでしょ?
いろいろ背負ってるんだもん。


↑和田さんは現在、小田原で古民家をセルフリノベーションしたnico cafeを経営。
1996年、和田さんとご主人の二人で店舗を中心としたデザイン設計事務所「KEMURI DESIGN WORKS」を設立され、
現在のnico cafe は事務所、夫婦の表現の場、カフェ、そしてたまにライブハウス、ギャラリー…など、
様々な顔で運営されています。もちろん、「大磯妻」も販売 。
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和田さんはいま、小田原で nicocafe というカフェを経営されていますが、
“どういった経緯でカフェを経営し、大磯妻を生んだのか。”
そのストーリーが気になります。
もともと私は、東京都内でデザインの仕事をしていたんです。
そのうち、ざわざわガヤガヤと騒がしい都内での仕事がかったるくなってきて、
実家が近い小田原に戻ってきました。
とりあえず、お金を稼ぐために働かなきゃいけないので
なーんとなく飲食店でバイトを始めたんですね。
で、働き始めた飲食店で内装がものたりない感じがして、
思わず「ディスプレイを私にやらせてください」って言っちゃったんです。
やらせて頂いたディスプレイを見た人たちが面白がってくれて、
「ウチもやってください」なんてお願いされることが増えてきたんです。
そこからですよね。
「店舗のディスプレイやデザインの仕事で独立できないかな…?」って思い始めたんです。
で、その当時はまだ結婚してなかった夫と一緒に本当に独立しちゃったんです。笑
えーー! また唐突に独立されたんですね。
でも、もうその頃には数店舗のディスプレイを手がけてらっしゃったのもあって
技術も知識もあったってことですか?
ん~… 技術も知識も十分ではないけど、
いつもひとつひとつやりながら覚えていったって感じですかね。
そうやって様々な店舗のディスプレイをやらせてもらってるうちに、
ディスプレイだけじゃなく、空間や建物に興味がわいてきたんです。
店舗のディスプレイだけじゃなく、お店一軒まるごと作れるかも…と?
そうなんです。そのころちょうど、
お仕事を頂いていた社長さんに「パン屋さんを作りたいんだ」というお話を頂き、
話を聞いてみると小さなパン屋さんだったので「私たちでも出来るんじゃないかな?」って。
パン屋さんの内装・外装 その他いろいろ まるっとやらせて頂いたんです。
それこそもう手づくりで図面引いて、壁はったり、レンガ積んだり…。
そのパン屋さんっていうのが、茅ヶ崎エリアで人気の
熊澤酒造さんのMOKICHI Baker&Sweet さんですね。もちろん私も行きました。
めちゃくちゃオシャレなんだけどと木の温かみのあるパン屋さんという印象です。

↑一軒まるごと手がけられた「MOKICHI Baker&Sweets」の外観。
出来上がったパン屋さんの評判がとても良くて…本当に嬉しかったです。
そのあと、「同じ敷地内の酒蔵をリノベーションして、
和食のレストランを作りたいのですが、お願いできますか?」というお話を頂きました。
それがパン屋さんのような小規模じゃなくて、
プロの設計士さんやゼネコンが入るような大きな仕事で…。
分からないことだらけではありましたが、とにかく「やらせてください!」と。
もちろん大変なこともたくさんありましたね。
でもとにかく頑張るしかない。やろう ! と決めて取り組みました。
私と夫が描いた絵がカタチになっていき、
たくさんの人たちのお力を借りて、結果一軒まるごと完成したんですけど、
それがまたすごい良いものができて。
力を出し切った感もあったし、素晴らしい経験でした。


↑蔵元料理「天青」。大人気の和食店です。
経験が浅いながらも、大きな仕事を最高の結果を出すことで終えられたんですね。
その後もどんどんお仕事を引き受けられていったんですか?
いや、日本一周の旅に出ました。笑
なんだか頑張り過ぎたのか、抜け殻みたいになっちゃって…。
大きな仕事を終えて、体も心も一区切りされたんですね…。
その旅はただの旅行というよりは、
日本全国の建築を見るためのリサーチも兼ねたものだったんですか?
そうですね。先の仕事で出し切ってしまった感があったので、
「いろんなものを見てインプットしないとこのままわかんなくなっていっちゃう… !」って
焦りはじめて。
そして、その日本一周の旅から帰って来てから夫が
「設計の資格をとってみようかな」と言い出し。
え!
設計に関する資格、お持ちじゃなかったんですか?
持ってなかったんですよねえ…。
資格なんて一切持ってなかったし、設計事務所に入ったこともなかったんです。
その後、夫は猛勉強して設計士の資格を本当に取っちゃったんですよね。
す…すごい。
設計士の資格を取ったら、有難いことにどんどん口コミで仕事が入るようになって。
いろんなお店さんのお仕事をいただくようになりました。
でも、そうしているうちに
「自分たちの表現を自由にできる場所が欲しい」って思うようになったんです。
で、良い物件ないかな~なんてネットで見てたりしたら古民家で良い感じのこの物件が出てて。
ちょうど子供が通っていた幼稚園が近かったのもあって即決したんです。
自分たちの表現を自由に出来る場を手に入れたことで生まれたのが、
この「大磯妻」だったんですね。
そうですね。
自分のお店をオープンさせたもんだから、好きなものを置きたくてしょうがなくて。笑
子育ての合間をみて作った「妻」を置いてたんです。
その頃はまだ、「うっかり売れたらいいな~」程度だったから
妻と天狗とベイベーと… ひと家族分しか作っていなかったんですよ。
するとある日、上品なマダムがお店に来て
「この人形面白いわよ! もっと作りなさいよ。 」って、マダムがすごく褒めてくれて。笑
そのままマダムがひと家族買って下さいました。
そんな出来事があったタイミングで、
「大磯市(オオイソイチ)」っていう海辺のマーケットが大磯で盛り上がっていて。
大磯市の主催者の方から「nico cafeさん、出てくれませんか?」って
声をかけていただいたんで、出てみることにしたんですよ。
もちろん、主催者の方は「カフェ」として声を掛けて下さったと思うんですけど、
私は「カフェの料理やお菓子ではあまりnico cafe らしさが出ないなぁ。」って
ちょっと考えていたんです。
モヤモヤしてるうちに「あ、妻があるじゃないか! 」って。笑
で、初出店の大磯市でカフェメニューの代わりに「妻」を売ることにしたんです。
「大磯市」だから「大磯妻」という名前をつけて。

↑左から「大磯妻」「ベイベー」「天狗」。妻と子供と夫でひと家族。
カフェメニューではなく丸裸の人形を売ることにした、初めての大磯市。
妻を初めて見たお客さんたちの反応ってどんなものでしたか?
たぶん、ドン引きでした。笑
みんな近寄れなかったみたいで、遠巻きに見てました。笑
でも、躊躇せずに「これください!」なんて言って面白半分で買ってくれる人がいたり、
大磯市の主催の方が「ネーミングが面白いですね!」って言って
買ってくれたり…というのはあったんです。
初お披露目では大勢の人にドン引きされたものの、
その中でも面白がってくれる人はちゃんといたんですね。
そう。そうなんですよ。
その後、大磯市のフラッグショップで置いてもらうことになり、
人気ブロガーの方が「大磯妻日記」なんて記事を書いてくださったり…。
そういうのがウケちゃって、人づてにジワジワと大磯妻に火がついていきましたね。
大磯妻が面白いのは、造形の面白さはもちろん
下着や洋服などのアイテムが豊富なところにもあると思います。
そもそもこういった展開にして楽しませようという戦略はあったんですか?
いや、最初は本当に潔く「裸一本」だったんですが、
まわりの友人が「服」をつくりたいと言ってくれたのを皮切りに、
妻グッズを作ってくれるひとが自然にたくさん集まり、一時期は軍団みたいになりました。
それはそれでとても楽しかったんですが、
皆さん忙しかったりして迷惑もかけてしまうし、頼みづらくなってきたので、
一旦全部整理をして、他の方に制作をお願いするものに関してはかなり縮小しました。
今では妻も洋服も全部自分で作るし、コーヒー豆や調味料、ビール、クッキーなど
自分でデザインしてコーディネートしたものだけを販売しています。

↑「裸花塩(らっかじお)」と 珈琲豆の「妻ブレンド」。ラベルは和田さんがデザインされています。
じゃあ今は、自分の目と手が届く範囲で制作されている感じなんですね。
そうですね。もう今は大きく広げずに、自分で出来る範囲で作っています。
和田さんが考える「大磯妻がウケている理由」ってなんだと思いますか?
ん~。
なんだろう! 笑
世の中の役にはあんまり立ってないよね? 立っているのかな?
地球を救ってるワケでもないし、便利な道具なわけでもないし…。
だけど、「裸」ってすごく楽しいんだと思うんです。
エロいのも楽しい。
裸ってこんなに楽しいのに、見ちゃいけないような気がするじゃないですか。
そこを「もう大人なんだから、裸楽しんじゃお~!!」って
思いっきり振り切ったのがウケたのかもしれないです。笑
最後に和田さん・nico cafe としてのこれからのコトをお聞かせください。
たくさんの手探りから始まったこのお店も、
徐々に色がしっかり出てきたし、
自分の作家活動の方面をもっと頑張っていきたいですね。
自分でもできちゃうのかもしれないけど、
人にプロデュースしていただくっていうのも面白いかも。
作家さん同士で繋がるのも面白いんだけど、
今回のPOP UP STORE みたいに、
全く違う業種の人とつながるのって本当に面白いと思いました。
今後も、たくさん降ってくるであろうチャンスを見逃さないようにしなきゃな… と思っています。



↑5月26日〜6月3日で開催した「大磯妻 ポップアップストア」、たくさんのお客様にお越しいただきました。
引き続き、Fountain Mountain 店舗の方で一部商品のお取り扱いを継続しております。