有田町と韓国。
遠く離れたこの二つの土地には、
深くて古い繋がりがありまして…。
400年以上前の戦乱の時代。
当時、日本にはなかった高い陶磁器の技術を持った朝鮮に目をつけた豊臣秀吉は
大勢の兵を率いて朝鮮へ出兵。
しかし、秀吉の死を期に兵たちは撤退することに。
その時に何千人もの朝鮮陶工たちが日本に連れ帰られました。
有田焼の祖として名高い 李参平さんもそのうちの一人。
有田の泉山の磁石は質が良く陶磁器づくりに適していたこともあり、
有田の地で窯業は急速に発展を遂げます。
朝鮮人陶工たちは窯業に従事し、遠く祖国を想いながらもこの有田の地で暮らし…
そして今日に至るのです。
簡単に簡潔に説明すると、
有田町と韓国との「深くて古い繋がり」とは、そういうお話。
少なからず、有田で生活している人たちは
そういった繋がりを感じる機会も多いでしょうね。
(皿山祭りでの高麗踊り や 山登りの日 など)
6月9日、Fountain Mountain にて
“ 芸能と陶芸から韓国を知る ” イベントを開催することを決めたのも
そんな理由で「有田でやること」の意味を強く感じたから。

“ 陶工への敬愛を込め、みなさまを韓国文化の粋へといざないます ” … なんて
大風呂敷を広げた『有田の 初夏と パンソリと。』ですが、
なんとか大盛況のうちに終えることができて、
ホッと一息… ついたところで開催レポートといきましょう。
ーーーーーーーーー
6月9日(土)とっても快晴。
この日のFountain Mountain は、メインフロアを丸椅子でびっしり埋め尽くし、
14時から始まる『有田の 初夏と パンソリと。』の準備は万端。
このイベントは先にも触れたように
“ 芸能と陶芸から韓国を知る ” イベントでして、
韓国の全羅南道より韓国最高水準の芸術家たちをお招きし
韓国の芸能や陶芸に触れてもらうためのもの。
● パンソリの演者
● カヤグム(琴)の奏者
● 粉青沙器の作家
● 韓国茶道の師範
など、総勢6名の芸術家集団「芸人風流」が来日。
錚々たる面々に「本当にFountain Mountain で良かったのだろうか…?」が正直な感想。
一流の演者さんの気分を盛り上げるような立派な舞台もなく、
設備の良いギャラリーで粉青沙器を飾ってあげることもできない…。
ないないづくしの申し訳ない状況ばかりでしたが、
「どんな場所でも最高のパフォーマンスを提供するのが我々だ。」と、
芸人風流 代表のキム ソクチュンさん。
さすが、その道の一流は違う…。
その言葉に救われながら粛々と準備を進めます。

↑有田だけでなく福岡・長崎など... たくさんのお客さまが。人数制限で泣く泣くお断りした方も多く申し訳なかったです。
このイベント、時間にすると2時間超。
途中、一度休憩をはさむものの結構内容は盛りだくさんなのです。
<プログラム>ーー
● パンソリ披露(1)「春香歌」
↓
● トークセッション(1)「パンソリと韓国文化を知る」
↓
● カヤグム独奏
↓
● パンソリ披露(2)「沈清歌」
↓
● 韓国茶道披露 & 韓国菓子のサーブ
↓
● トークセッション(2) 「日本と韓国の陶磁器文化を知る」
↓
● 伝統料理を食べながらアフタートーク
ーーーーーーーーー
ね? 内容充実でしょ?
そしていよいよ14時。
『有田の 初夏と パンソリと。』、予定通りスタート。
まずはパンソリ「春香歌」の披露で幕開けです。
キム オンランさんが鼓手を務め、パク ソラさんが唱手。
両者とも韓国の重要無形文化財で、最高の名誉をお持ちの二人。

↑パンソリは、日本の「能」に近いとされ、唱手と鼓手が掛け合いの中で物語を紡ぎ出すという伝統芸能。
右が鼓手のキム オンランさん、左がパク ソラさん。
いつもはだだっ広く感じるFountain Mountain ですが、
力強い歌声と鼓の響きで、とんでもない迫力… !
一人の女性の体から発せられる声量とは思えないほど圧倒感。
もちろんパンソリは韓国語で演じられますので、
後ろには日本語の字幕を用意。
「春香歌」は叶わぬはずの愛の物語を甘酸っぱく描いたステキな物語。
字幕には甘い甘い愛の言葉が並びます。
そして、、、
パンソリのとんでもない圧倒感で幕を開け、続いてのプログラムは
「パンソリと韓国文化を知る」と題したトークセッション。

↑ナビゲーターは西南学院大学 西谷郁先生。アジア映画史を専攻され、2009年には福岡インディペンデント映画祭を立ち上げられました。パンソリへの深い愛! 熱い愛! が印象的な先生。
先ほどパンソリを披露いただいた二人に再び登場していただき、
「パンソリに出会ったキッカケ」や
「どのようにパンソリを習得したのか?」など
たくさんの面白い話を聞くことができました。
そして、カヤグム独奏。

↑カヤグムとは韓国の代表的な伝統楽器。日本の琴と形は似ていますが、爪を用いずに奏でるなど奏法や音色などは異なるんだとか。
カヤグムの奏者は、パンソリの鼓手でもあるキム オンランさん。
パンソリの鼓手でありながら、カヤグムの奏者、そして舞踊にまで精通しているんだとか…
多才すぎる… !
そして、再びのパンソリ披露。
演目は「沈清歌」の一節。

↑「沈清歌」は、物乞いをしながら父親を養う孝行娘が主人公の少しファンタジックな物語。
冒頭の「春香歌」が少ししっとりした愛の物語だった分、
この「沈清歌」は演じる身振り手振りも大きく、とってもダイナミック。
日本語の字幕を目で追いながらも、激烈な情緒をビンビンに感じる演目という印象。
そして… 日本で言うところの幕間、
韓国茶道披露 & 韓国菓子のサーブ。
「日本茶道は格式を重んじる作法の世界だけど、
韓国茶道はもっともっと自由で華やかな世界なんですよ。」と韓国茶道師範のパク イノクさん。

↑確かに使用する道具の種類も多く、所作も華やか。初めて飲んだ韓国茶は、紅茶のようなふくよかな味わいでした◎
左が韓国茶道師範 パク� イノクさん。右がチョン ナラ さん。
そしてまだまだプログラムは続きますよ。
「日本と韓国の陶磁器文化を知る」と題したトークセッション。
全羅南道 務安で粉青沙器作家として活躍されているキム ムノさんと、
古唐津を彷彿とさせる作風で人気の飯洞甕窯 梶原靖元さんにお話をお伺いしました。

↑左が梶原靖元さん、右がキム ムノさん。お酒が大好きな梶原さんと、中学時代にお酒が原因で大きなトラブルに巻き込まれたキム ムノさん。共通点と対照的な点があるお二人。
キム ムノさんは、
このイベントの2日前からFountain Moutnain の奥の広間で作陶展を開催されていて、
「粉青沙器のルーツである有田でぜひ展示をしてみたい」と
このイベントのキッカケを作ってくださった方。
キム ムノさんも梶原さんも、自分が作陶に関わることになった経緯や
互いの作風についてなど、普段は聞けないようなお話を聞かせてくださいました。
そして、、、
盛りだくさんのこのイベントも、あっという間に予定時間を少しオーバーし…
最後はアフタートークと称した「出演者と気軽に話せる酒宴」。
じつは6月1日って、
朝鮮人陶工たちが山の頂上で、遠い故郷を想いながら酒宴を開いたとされる「山登りの日」。
一週遅れではありますが、このイベントは「山登りの日」を意識したものでもあったのです。


地元のお料理名人にお願いして作ってもらった豪勢な「山登り弁当」と、
福岡の韓国領事館から差し入れていただいた美味しいマッコリ。
芸人風流のみなさまと、
有田ほか、九州中からお越しいただいたお客さまが入り乱れて酒宴がスタートした光景を見て、
「禍々しい歴史的な背景は忘れてはいけないことなんだけど、
現代の有田のいまこの場所では、みんな一緒にニコニコしている」。
この有田の地で、やるべくしてやったイベントだったんだなぁ…と強く思いました。

↑代々続く能楽師の家に生まれ、現在は福岡を拠点に活躍する今村嘉太郎さんも飛び入り参加。
日韓の伝統芸能の競演となりました◎
『有田の 初夏と パンソリと。』。
はるばる遠く韓国から来日してくださった芸人風流のみなさんをはじめ、
たくさんの地元の方々の協力と善意に甘えることができて
素敵なイベントになったのではないかな…と思っています。
本当に本当にありがとうございました。
来年も形を変えて、この『有田の 初夏と パンソリと。vol.2 』で
みなさまにお目にかかれますよう….。

↑Fountain Mountainオーナーと、粉青沙器作家のキム ムノ先生のお別れのツーショット。全羅南道へインタビュー取材に行きたいですね。